メールマガジンNo10~社長・経営陣のための契約法務の最前線-電子契約とは(2)~
■INDEX■(企業における契約法務のデジタルシフト~電子契約の実務)
(前回からの流れ)
前回は、官民問わず活用が進められている、注目の「電子契約」について取り上げました。
今回は電子契約の実務的なメリットやデメリット、導入のポイント等についてさらに掘り下げていきたいと思います。
1 電子契約の実務的な有効性(メリット)
電子契約のメリットとして典型的に挙げられているのは以下の(1)、(2)、(3)のような点です。
(1)ペーパーレス
紙の契約書での調印が不要となります。
その分、紙代の節約、郵送コスト、関連する袋とじなどの作業も省略され、業務率がアップするといわれています。
(2)印紙税の課税なし
現行法において、印紙税がかかる課税文書とは書面による文書を指します。
ちなみに、印紙税はとても特殊な法律です。課税分類としては、所得課税(所得税や法人税)などの類型ではなく、流通税(権利の取得や移転をはじめとする各種の経済取引に担税力を認めて課される税金)の一種とされています。
この流通税の分類の中では、登録免許税(不動産等)や不動産取得税などは比較的課税の計算や根拠がわかりやすいですが、印紙税は、その課税の根拠は「それらの文書が各種の経済取引の表現であり、担税力の間接的表現である」などと言われています。
課税物件は、「各種文書を作成すること」とされており、「文書」には「電磁的記録」によるものを含まないとされており、要は「書面≒紙」を作成しないのであれば、印紙の貼付は不要とされております。
正直なところ、違和感はぬぐえませんが、いずれにせよ、書面≒を作成しなければ課税なし、という点は確立されたルールであり、電子契約によって印紙税が課せられないこと自体は、決して脱法ではありません。
印紙税についていえば、特に金額がかさみやすい請負契約書(2号文書。1通につき0円~60万円)、継続的取引基本契約書(7号文書:1通につき4000円)、といった契約書類については、メリットが大きいといえます。
(3)紙に比べて紛失や劣化、棄損、データ改ざんのリスクが軽減
紙ですと、物理的な紛失や劣化、毀損などが生じます。
この点、電子の場合は、劣化などは防止できます。改ざんの点は、紙、デジタルでもそれぞれ起こりえますので、現状では一長一短ともいえます。
2 電子契約は証拠として認められるのか(証拠力はあるのか)?
当事者間で争いが生じ、最終的に裁判となった場合において、電子契約による契約書(以下「電子契約書」)を証拠として提出する場合に、証拠力(事実認定の基礎とすること)が認められるためには、当該電子契約書について、「形式的証拠力」(文書の成立の真正=作成者の意思に基づいて当該文書が作成されたこと=偽造でないこと)を立証する必要があります。
実際には、当事者間で形式的証拠力を争われる場合は多くはないのですが、全くないかと言われれば、そうでもなく、シビア・デリケートな企業紛争などでは、争点となることもあり、その場合には形式的証拠力の立証は容易ではありません。
(ア)紙による契約締結
比較として、文書(書面による契約書等)については、「本人(又は代理人)の署名又は押印」(前提事実)があるときには、当該文書の形式的証拠力が推定される旨が定められ、立証の困難が緩和されております(民事訴訟法第228条)。
要は、印鑑証明書があれば、推定が働き、相手方に立証責任が転換されることとなり、強力な証拠となっています。重要な契約などに実印での押印と印鑑証明書を求められるのは、この点も考慮してのことです。
(イ)電磁的記録による契約締結(電子署名法に準拠するケース)
電子契約書の場合においても、電子署名法第3条で、「本人による電子署名(・・・本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われていること」(前提事実)がある場合には、形式的証拠力を推定する旨の規定が設けられ、電子証明書を提出できれば、上記(ア)とほぼ同程度、立証の困難が緩和されております。
ただ、現状、電子署名法に準拠するシステムの導入には、価格などの点でハードルは低くはないといわれています。
(ウ)電磁的記録による契約締結(電子署名法に準拠しないケース)
近時増えているサービスとして、「電子契約でありつつ電子署名法に準拠しないケース」が挙げられます。
電子署名法に準拠しない分、手ごろ・安価に導入ができる反面、形式的証拠力の立証については、今のところ確立されている状況にはないといえます。
結論的には、「電子契約でも証拠として認められる(認められうる)」といえますが、紙による場合に比べ、確立までは至っていない、というのが実情です。
特に(ウ)がどの程度、社会全体や各業界に浸透していくかが、デジタルシフトの速度の決め手になりそうです。
3 電子契約の実務的な留意点(デメリット)
また、電子契約には、一般的に、以下のようなリスクも生じ得ますので留意が必要です。
(1) 当事者本人の契約締結権限の有無
先ほどの証拠力の点とも重なりますが、契約当事者となる個人について契約締結権限があることの確認が必要となります。
紙であれば、実印を持っているのは、本人かそれに近い人と一般的には言えますが、電子契約の場合、サービスや会社の稟議体制によっても異なりますが、デジタルにあまり強くない代表者の場合、担当者任せとなることも十分生じえます。
代表取締役以外の者が担当者となる場合においては、契約締結の代理権限の確認は慎重に行う必要があります。
(2) サービスの終了への対策
電子契約の中で、サービス提供事業者のサービスに依存する場合、事業者がサービスを打ち切る可能性も想定しなければなりません。
終了後は、契約書の保存等について事業者の協力を得られなくなる可能性がありますので、適宜、必要な契約書のダウンロード保存をし、バックアップを取っておく等の対策が必要となります。
(3) 国税関係書類の保存(電子帳簿保存法等)
また、租税法上、税務申告のための帳簿や関係書類は、原則として紙で保存することが義務付けられており、この点の留意も必要です。
電子取引に関しては、一定の法令基準を満たすことにより、電子文書にて保管することで保管義務を満たすことも可能ではあります。
4 電子契約の導入のポイント
・電子契約には大きなメリットがある
・導入には、導入目的、業界や当該取引における浸透度、費用対効果などを考慮する必要がある
5 本号のむすび
電子契約のメリットである、(1)ペーパレス、(2)印紙税節減、(3)紙に比べて紛失や劣化、棄損、データ改ざんのリスクが軽減 といった点は、非常に魅力的であり、そもそもの社会全体・企業活動全域におけるデジタルシフトの流れから、電子契約の流れは今後も加速していくと思われます。
その他、そもそもの導入の是非という意味では
・何のために導入するのか(業務効率化、印紙税、保管コスト等)
・その他のデジタルシフトの進み具合
・当該取引や当該業界における電子取引の進行度・社会的認知度
・当社及び先方への負担
・導入コスト・費用対効果等
も当然、考慮する必要があります。
現状でデジタルシフトが進んでいない業種でも、自社の関連する官公庁のかじ取りや業界の大手事業者の動向などで、一気にデジタルシフトが進む可能性があります。
たとえば、現に建設業界では、印紙税(2号文書)の負担の大きさも相まってか、電子契約が加速しているといった情報も聞きます。
社会全体もさることながら、各業界の動向をウォッチしていくことが重要ですね。
いかがでしたでしょうか。最後までお読みいただき、ありがとうございました。これからも有益な情報をお届けして参ります。
日増しに秋の深まりを感じるころとなりました。 季節の変わり目でございます。皆様もどうぞ体調にご留意くださいませ。