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メールマガジンNo07~社長・経営陣のための人事労務管理(定額残業代―歩合給の場合は?(続))~

■INDEX■(定額残業代―歩合給の場合どうなるのか)

(前回からの流れ)

前々回、注目最高裁を踏まえた実務対応(人事労務分野)として、平成30年7月19日に出されました最高裁判決(日本ケミカル事件)を取り上げました。

その流れを受け、「うちの会社は歩合給を採用しているので残業代は支払い済みだと思うのだが、歩合給の場合、定額残業代は大丈夫なのか」といった声を受け、国際自動車事件(最判平成29年2月28日)などを念頭に、歩合給における割増賃金/固定残業代のテーマを取り上げ、最高裁の判断内容を取り上げました。

事件自体は、「差し戻し」となったことから、その後の動き等をご紹介いたします。

 

1 事件の要約

要約して紹介しますと、被告(上告人)は、大手タクシー会社で(KMグループ)、被上告人(原告)は、そこで勤務していた元従業員のタクシー乗務員で、請求としては、いわゆる残業代の支払を求めた事案でした。

 ・賃金は、「基本給」、「服務手当」、「交通費」、「深夜手当」、「残業手当」、「公出手当」、「歩合給」で概ね構成。「公出」とは、所定乗務日数を超える出勤。「揚高」=売上高。

 ・割増金と歩合給を求めるための計算式は以下。

 「対象額A」=(所定内揚高-所定内基礎控除額)×0.53+(公出揚高-公出基礎控除額)×0.62 

 「歩合給」=「対象額A」-{割増金(深夜手当、残業手当、公出手当の合計)+「交通費」}

 ・歩合給とは別に「割増金」を支給

 同業の方を別にすれば、中々に理解しづらいですが、ポイントは、「売上高(揚高)が同じである限り、時間外労働をしてもしなくても、賃金は同じ。内訳として歩合か割増金になるかが異なるだけ」という計算式であることですが、「このような割増金の控除が有効かどうか」という点でした。

 原告サイドは、「時間外労働をしても賃金が上がらないのは違法。長時間労働を誘発する」と主張しておりましたが(違法説)、結論として、最高裁は、「無効とは言えない」としたうえで、概要以下の通り述べ、審理不尽として高裁に差し戻しました

 

「・労働基準法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことにかんがみると、労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となりうるものの、当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできない。

・賃金規定の明確区分性と、割増賃金として支給された額が、労働基準法37条に定められた方法により算定した割増金の額を下回らないかについて、さらに審理を尽くす必要がある。」

 

2 差し戻し審(東京高判平成30年02月15日)

最高裁から差し戻しを受けた東京高裁は、結論として、概要、以下の通り、このような歩合給の制度を「適法」としました。

(1)被告の賃金規則においては、通常の労働時間の賃金に当たる部分と法37条の定める割増賃金に当たる部分とが明確に区分されて定められているということができる。歩合給は、労働の成果である売上高に応じた一定割合の金額を報酬とする賃金であるが、労働の成果のみならず、労働効率性を評価に取り入れて、成果の獲得に要した労働時間によって金額が変動するものとしても、成果主義的な報酬として、通常の労働時間の賃金であるという本質を失わない。通常の労働時間の賃金としての歩合給の算定に当たり、時間外労働時間の長さを考慮に含めることは公序良俗に反しない。

(2)被告の賃金規則では、割増賃金として支払われる金額は、割増金を控除する前の対象額を計算の基礎とするから、それを控除した後の歩合給に相当する部分の金額を基礎として算定する法37条等に定められた割増賃金の額を常に下回ることがないということができる。

したがって、被告の賃金規則においては、割増金の支払については、法37条の定める支給要件を満たしているというべきであって、被告の原告らに対する未払の割増金又は歩合給があるとは認められない。

  

3 差し戻し審を受けた実務対応

最高裁においても、「無効ということはできない」とされていたことから、大方予想された内容ではありましたが、東京高裁では、あらためて、「適法」と判断されました。

ただ、現在、あらためて上告中のようで、また、同社に関しては第2次、第3次、第4次といった形で関連訴訟が展開されています。

この間、固定残業代制については、最高裁では、前々回取り上げました日本ケミカル事件が出されています(平成30年7月19日)。

同事件では、固定残業代制の有効性≒弁済の有効性については、根本は、「対価性と明確区分性+諸般の事情」に整理された、という点は、ご紹介の通りです。

「時間外労働をしても賃金が上がらない」歩合給設定の当否について、明確区分性もさることながら、特に「諸般の事情」としてどのように判断されるのか、最高裁の判断が注目されます。

ただし、「時間外労働をしても賃金が上がらないこと」にはやはり批判が多く、制度そのものはリスク含みであり、制度設計や数字設定には、やはり、「配慮」を要するといえます。

 

4 年末の結び

いかがでしたでしょうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

従前からもそうでしたが、特に昨今の労働分野の重要性は論を待ちませんが、この分野では、本年も、働き方改革関連法案の議論、重要な最高裁判例等、大きな動きがございました。これからも有益な情報をお届けして参ります。

いよいよ本年も残りわずかとなりました。くれぐれも体調ご留意くださいませ。

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