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メールマガジンNo06~社長・経営陣のための人事労務管理(定額残業代―歩合給の場合は?)~

■INDEX■(定額残業代―歩合給の場合どうなるのか)
(前回からの流れ)
前回、注目最高裁を踏まえた実務対応(人事労務分野)として、平成30年7月19日に出されました最高裁判決(日本ケミカル事件)を取り上げましたところ、

●「うちの会社も以前から固定残業代を導入しているが、大丈夫だろうか」
●「以前は制度(規定類)を整えていれば大丈夫と思っていたが、実態も重視されると聞いて、固定分の金額設定や時間設定を今一度見直さなければならないと思った」
といった声を伺いました。

それとともに、多く寄せられたのが、
●「うちの会社は歩合給を採用しているので残業代は支払い済みだと思うのだが、歩合給の場合、定額残業代は大丈夫なのか」
という声でした。

1 歩合給とは
「歩合給」とは、一般に、一定期間の稼働による売上高等に一定の歩合を乗じた金額を給与として支払う、いわゆる出来高払い(労基法27条)の制度です。
歩合給がすべての「完全歩合」のケースもあれば、固定給部分等もある「一部歩合給」のケースもありますし、その歩合率も、5%程度のケースもあれば、
業種によっては30~40%など、さまざまです。
業種的には、タクシーやトラック等のドライバー職や、業種を問わず営業社員等に導入されているケースが多いです。
この点、定額残業代と歩合給については、昨年最高裁が出された重要テーマでもありますので(平成29年2月28日、国際自動車事件)、この点、解説したいと思います。

2 国際自動車事件(最判平成29年2月28日)
(1)事案
被告(上告人)は、大手タクシー会社です(KMグループ)。
被上告人(原告)は、そこで勤務していた元従業員のタクシー乗務員です。
請求としては、いわゆる残業代の支払を求めた事案です。
問題とされた賃金体系の概略は以下です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・賃金は、「基本給」、「服務手当」、「交通費」、「深夜手当」、「残業手当」、「公出手当」、「歩合給」で概ね構成。「公出」とは、所定乗務日数を超える出勤。「揚高」=売上高。
・割増金と歩合給を求めるための計算式は以下。
「対象額A」=(所定内揚高-所定内基礎控除額)×0.53+(公出揚高-公出基礎控除額)×0.62
「歩合給」=「対象額A」-{割増金(深夜手当、残業手当、公出手当の合計)+「交通費」}
・歩合給とは別に「割増金」を支給
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同業の方を別にすれば、中々に理解しづらいですが、ポイントは、
「売上高(揚高)が同じである限り、時間外労働をしてもしなくても、賃金は同じ。内訳として歩合か割増金になるかが異なるだけ」
という計算式であることです。

同社を被告とした訴訟はいくつか起こっているのですが、最高裁(平成29年2月28日)が出された事件についていえば、第1審(東京地裁)、第2審(東京高裁)を通じて議論されたのは、
「このような割増金の控除が有効かどうか」という点でした。無効の場合未払いの割増金の支払義務が生じることとなります。
原告サイドは、「時間外労働をしても賃金が上がらないのは違法。長時間労働を誘発する」と主張したわけで、裁判所の判断が注目されました。

(2)第1審、第2審
第1審、第2審は、概要、「売上(揚高)が同じである限り時間外労働をしてもしなくてもトータルの賃金は同じであり、
法37条(割増賃金の支払い)の規制を潜脱するものであり、公序良俗に反して無効」と判断しました。

(3)最高裁の判断(平成29年2月28日最高裁)
最高裁は、概要、以下の通り説示しました。
ア 「使用者が、労働者に対し、時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、
それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討したうえで、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として
支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、同条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきである
(最判平成6年6月13日高知県観光事件、最判平成24年3月8日テックジャパン事件参照)」
イ 「労働基準法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことにかんがみると、労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から
同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは
問題となりうるものの、当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできない。
ウ 「原審は、本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分が労働基準法三七条の趣旨に反し、公序良俗に反し無効であると判断するのみで、
本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か、
また、そのような判別をすることができる場合に、本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労働基準法三七条等に定められた方法により
算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断しなかったのであり、原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果、
上記の点について審理を尽くさなった(差し戻し)。

(4)最高裁の意味
ア アについて
この点は、前回・前々回の記事で取り上げた固定残業代制の有効性・判断基準に関するもので、従来の最高裁である高知県観光事件、テックジャパン事件を引用しました。
今であれば、前回・前々回の記事で取り上げた最判平成30年7月19日日本ケミカル事件も引用されたうえで、多少説示は変わるように思われますが、この点は特に特色はないといえます。
イ イについて
「売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定め」は無効とは言えないとされました。
ウ ウについて
原審は上記イについて「無効」であることを前提として結論を出したので、「審理不尽がある」として差し戻しました。

●「原告サイドの言う「時間外労働をしても賃金が上がらないのは違法だ」という点はどのように判断されたのでしょうか?
●最高裁インパクト、この後の差し戻し審の動き、固定残業代制の制度設計にはどのような影響があるのでしょうか?
といったあたり、次号で取り上げたいと思います。

いかがでしたでしょうか
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これからも有益な情報をお届けして参ります。
すっかり秋めいてまいりました。体調ご留意くださいませ。

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